昨今、サブスクリプション型のビジネスモデルが流行っています。日本語で言うと要するに定額課金のことで、携帯電話料金などでは昔から主流の課金モデルでしたが、それが様々な業界に展開されています。例えば、カーシェア 、洋服レンタル、ブランド品レンタル、SaaS、年間契約のスポーツジムなど様々です。
利用者側としては、高い金額を最初に払う必要がないというメリットがありますが、事業者側としても
- 月々数百円〜数千円の低額なため、気軽に商品を手にとってもらえる
- 解約しない限り毎月の課金が見込めるので、将来の売上予測が立てやすい
- 長期間課金をしてくれれば、一度だけ高額な金額で購入してくれるよりも顧客を長い間引きつけることができるため、最終的に売上が向上する
などのメリットがあると言われています。
メリットの多いサブスクリプション型のビジネスですが、ビジネス戦略を考える上で、従来型のビジネスと比較して重要視されるKPIに違いがあり、特徴的なものがいくつかあります。今回はそんなサブスクリプション型のビジネスで重要視されるKPIについて紹介します。
1.売上に関する指標
1.1.MRR(Monthly Recurring Revenue)
MRRとは、毎月繰り返し得られる収益(売上)のことで、日本語では「月次経常収益」といいます。
特に、成長フェーズにある企業にとっては、MRRの推移をみることでビジネスの成長率を判断できるため、重要な指標となります。MRRには、契約月のみ発生する初期費用や、突発的に発生する費用などは含まず、純粋にサブスクリプションで得られる契約費用のみを計算します。
MRRは詳細には「New MRR」、「Downgrade MRR」、「Expansion MRR」、「Churn MRR」の4種類に大別することができます。
1.1.1.New MRR
New MRRとは、新規顧客からもたらされるMRRです。特に、創業期の企業で重視すべき指標です。New MRRが成長しないということは、新規顧客獲得の能力が弱いと言えるため、マーケティングなどを強化すること必要があります。
1.1.2.Expansion(upgrades) MRR
逆に、上位サービス・商品への変更によるアップセルで取引額が増えた既存顧客から得られるMRRのことです。細かな料金プランを設定したり、サービスレベルをあげることで、顧客ロイヤリティを向上させ、アップセル、クロスセルを促進することでExpansion MRRを高めることができます。
1.1.3.Contraction(Downgrades) MRR
Downgrade MRRとは、既存顧客のなかで下位の料金プランへの変更(ダウンセル)による取引額が減った顧客から得られるMRRです。Downgrade MRRが多い場合、サービスの利用頻度を向上させる必要があります。サービスの質が悪いからDowngradeにつながったと考えられるため、なぜDowngradeされているのか原因を突き止め、ユーザーサポートやサービスレベルの改善をする必要があります。
1.1.4.Churned MRR
当月に解約された既存顧客から得られていたMRRのことです。なぜ解約されているのか原因を突き止め、解約防止策を講じる必要があります。例えば、解約理由から商品・サービスの改善などを実施します。
1.2.SaaS Quick Ratio
サービスが順調に成長しているかは、MRRの成長率が高いかを見ることで判断できます。SaaS Quick Ratioという指標があり、下記の式で計算されます。
SaaS Quick Ratio(%) = (New MRR + Expansion MRR) / (Contraction MRR + Churned MRR)
ただし、企業の成長フェーズによって重視すべき指標は異なります。創業期は新規顧客の獲得が重要なのでNew MRRが重視されますが、成長が進むと顧客ロイヤリティの高さを示すExpansion MRRなどが重視されます。
1.3.ARR(Annual Recurring Revenue)
ARRは日本語では「年間経常収益」になります。つまり、1年間に入ってくる収益のことです。ARRは1年間の収益になるので、1.1.で紹介したMRRを12倍したものです。
MRRは月次で積み重ねが期待できる売上なのでより詳細な分析を行う時に有用ですが、ARRは
- 年間契約のサービスを提供している場合
- 年間売上の成長率などを検討したい場合
などに有効です。通期の決算のベースにもなる数字のため非常に重要なKPIです。
2.利益に関する指標
2.1.RPM(Recurring Profit Margin)
RPM(Recurring Profit Margin)は、日本語では「定期利益率」のことです。MRRやARRから定期的にかかる費用と解約によって失われる売上を引き、売上に占める利益の割合を算出します。
売上に対して利益がどれだけ残るかで、年間の投資可能額や年間利益をいくら計上するかを決定できる重要なKPIです。RPMは以下のように計算します。
RPM= ( ARR – ( 解約費 + 売上原価 + 一般管理費 + 研究開発費 )) / ARR
サブスクリプション型のビジネスの場合、売上原価だけでなく、顧客の維持に必要な販管費や研究開発費なども定期費用として扱います。
3.顧客単価に関する指標
3.1.ARPU(Average Revenue Per User)
ユーザー平均単価(ARPU)とは、顧客一人あたりの平均収益を示し、各顧客から平均してどのくらいの収益を得たかを表す指標です。Average Revenue Per AccountでARPAと言ったりすることもあります。下記の式で表現されます。
ARPU=MRR or ARR(月間または年間総収益) / 顧客総数
3.2.ARPPU(Average Revenue Per Paid User)
サブスクリプション型のビジネスで、無料料金プランを導入している場合、利用者には課金ユーザー、無課金ユーザーの2つのタイプが存在します。
ARPU ではどちらのユーザーも合算して計算されますが、もし課金ユーザー数が明確な場合は、総収益を総ユーザー数で割るのではなく、課金ユーザー数で割ることにより、課金ユーザー平均単価を求めることができます。
ARPPU=MRR or ARR(月間または年間総収益)/ 課金ユーザー総数
ARPやARPUはサービスの価値を測る上で非常に重要な指標になります。
- ARP/ARPUはどのくらいか(顧客はサービスにどの程度の価値を感じているのか)
- ARP/ARPUが上がっているのか下がっているのか
- プロモーションをすればどのくらい変化があるのか
- 料金プランを変えるとどのくらい変化があるのか
などの情報を分析することで、どのようなプロダクト戦略を取れば良いかの指標になります。
4.顧客獲得効率に関する指標
4.1.LTV(Life Time Value)
LTV(Life Time Value)は日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。このLTVというのはこれまでのビジネスにはなかったKPIの概念になるので、非常に重要です。
一人の顧客がサービスを契約してから解約するまでにどれだけの利益をもたらすかを表した指標です。下記の式で計算されます。
LTV = ARPU(月間)×LT(顧客契約継続期間)
LTVはサブスクリプションビジネスにおける、カスタマーサクセスの最重要KPIと言われており、サブスクリプションビジネスをサポートする製品を出しているZuora社などもこのLTVを非常に重要視しています。
LTVと顧客総数の積が事業の価値になります。LTVが高いほど顧客がプロダクトに対して見出している価値が高いと言えます。サブスクリプションは継続課金型のため、LTVを向上させることが事業拡大に繋がります。
4.2.CAC(Customer Acquisition Cost)
CAC(Customer Acquisition Cost)は、日本語では「顧客獲得費用」のことです。マーケティングや販売経費などのコストが、顧客一人あたりにどのくらい費やされたのかを計る指標になります。
LTVがCACを超えなければ顧客獲得費用が顧客からの収益を下回るため、事業が上手く行っていない状態になってしまいます。LTVとCACの比率の目安として下記が目安として使われます。
LTV / CAC > 3
CAC を分析することで、マーケティング戦略の有効性、費やされた経費が顧客獲得にどのくらい反映しているのかなどを分析することができます。
CACを分析することで、利益拡大を図ったり、平均顧客単価の向上に反映させることができます。また、ARPUを向上させることでCACの回収期間を短縮することも可能です。
4.3.Churn Rate
Charn Rate(解約率)は顧客の継続性を測る指標です。顧客の維持を重要とするサブスクリプション型のビジネスでは非常に重要視されます。
Churn Rateが高いとLTVが下がるため、長期的視点で見たときには、解約率の改善が収益の改善に一番影響を与えます。Churn Rateには下記の2種類があります。
4.3.1.Customer Churn Rate
Customer Churn Rateは、期間中にどれだけ割合の顧客が解約するかを表した指標です。下記のように計算されます。
Customer Churn Rate=月間の解約顧客数 / 月初の顧客数
4.3.2.Revenue Churn Rate
Revenue Churn Rateは、期間中にどれだけの割合の売上が解約またはダウングレードされたかを表します、下記のように計算されます。
Revenue Churn Rate =(Contraction MRR + Churned MRR)/月初のMRR
5.まとめ
サブスクリプション型のビジネスで利用される主要なKPIについて紹介してきました。是非参考にしてみてください。